ピアノの選び方


 point 8. 身近な人たちのアドバイスが全てではない

実際に弾いてみて、ご自身が好きな音色のピアノを手に入れるのが最も幸せで、最も正しいピアノ選びです。
何よりもまず、ご自身の感性を信じてください。

よく日本のピアノの先生で、「グランドピアノじゃなければダメ」という先生が多いと聞きます。
それでは、ショパンコンクールなど、世界的コンクール入賞者の多くが、
自宅にはヨーロッパ製のアップライトピアノしか所有していないという事実をどう説明されるのでしょうか?

確かに国産のアップライトピアノは、タッチも基準を大幅に下回り、鍵盤の戻りも遅く、
連打やトリルができない等、不満点が多いのは事実です。
けれども、ヨーロッパ製のアップライトピアノになると、音色も弾き心地も国産とは全く異なります。
「音色」という点においても、国産はグランドピアノもアップライトピアノも、
ヨーロッパ製アップライトには到底かないません。

国産グランドピアノは、国産アップライトピアノよりは弾き心地の点では勝るにしても、
音色に変化や表情をつけたり、ハーモニーを美しく奏でるには限界があります。

また、ヨーロッパ製ピアノの経験に乏しい調律師や、国産ピアノだけを扱う業者がよくお客様にする説明として、
「ヨーロッパピアノは日本の気候に適しておらず、変化も激しくメンテナンスが大変。
調律も狂いやすく、不具合も起きやすい」という話をよく耳にします。

そもそも、ヨーロッパ製ピアノは、日本製ピアノとは全くの別物です。
扱い方を知っている技術者でなければ正しい調律も調整もできません。

国産ピアノは、定められた寸法通りに生産される均質な製品のため、
調整も、定められた寸法通りに行うことが出来ます。
それに対してヨーロッパ製ピアノは、ひとつひとつの木材の質に合わせた寸法で手造りされるため、
定められた寸法どおりの調整・調律は通用しません。

ヨーロッパ伝統の技術で調整・調律を施したヨーロッパ製ピアノは、
素晴らしい声と響きで歌ってくれるようになります。
生き物ですから、新品の場合は最初は変化もでてきますが、落ち着いてくると調律の狂いも少なくなってきます。
当店に置いてある非売品のブリュートナーは100年以上経っていますが、
1年以上調律していなくても調律が全く狂いません。

また、どんなに頑張ってメンテナンスしても寿命40〜50年の国産ピアノに比べ、
ヨーロッパピアノの寿命は150〜200年、保管状態とメンテナンスによってはそれ以上にもなります。

なぜ、寿命がそれほどまで違うのでしょうか。

「木は、切った後も樹齢の年月を生きる」と言われています。
国産ピアノは生産数が多いため、(ヨーロッパ製の約200倍生産されています)
樹齢の短い木材を人工的に乾燥させ、節の部分も含めて使用します。
それに対してヨーロッパ製ピアノは、樹齢100年以上の木材を長い年月をかけて自然乾燥させ、
気候や環境の変化に耐え抜いた高品質の木材、しかも、節の部分を除いた良い部分だけを使用します。
このような木材の違いが、寿命の差をもたらす最大の理由です。

高級な家具を購入されたことがある方でしたら、
「本物の木は生き物だからこそ、乾燥や湿気で反ってしまったり、割れてしまったりすることがある」
という事実をよくご存知です。
変化のないピアノを「良いピアノ」と呼ぶならば、
ベニヤ板や合板でつくられたピアノの方が良いピアノということになってしまいます。
普通に湿度管理ができていれば、本物の木の方がクオリティーが高く耐久性が高いことは
もうおわかり頂けたかと思います。

また、「ヨーロッパのピアノは響板が割れやすい」というのも正しくありません。
私共が調律のお客様のところで見てきた響板割れのピアノのうち、ほとんどは日本製のピアノでした。
湿度管理がされていない場所では、国産でもヨーロッパピアノでも同じようにダメージを受けるため、
どちらが強い、弱いではありません。



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ピアノだけではなく、世の中の多くのものが宣伝力などに動かされ、
人々は表面上の情報だけで物事を判断してしまいがちです。
けれども、本物を見極め、本当に良いものを手に入れるためには、
インターネットや人から伝え聴いた情報を全て拭い去ってください。
そして、一旦まっさらな状態になって、ただご自身の五感だけを信じ、
感性を研ぎ澄まして、ご自身にとって納得のいくピアノを選んでいただきたいと思います。
それこそが、本物を見極めるための最良の方法なのです。

日本中に、素晴らしいピアノの音色が溢れることを心から願って止みません。



  

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