ピアノの選び方


 point 3. 中古ピアノのチェック必須箇所はこんなにある!!
 
 まずは、このページの内容を理解するための基礎となる、ピアノの簡単な解剖図をご覧ください。


■ グランドピアノ ■


■ アップライトピアノ ■


 
 


 @ ハンマーの消耗具合

 ※ハンマーとは:弦をたたいて音を出すためのもの。木琴でいうと、ばちの役割を担っている部分です。
  木にフェルトを圧縮したものを巻きつけて作られています。


 ピアノによって、ハンマーのサイズは違いますが、
 ハンマーが消耗して小さくなってしまっているものは、ごく近い将来、交換が必要になります。
 ハンマー交換にかかる費用は、ピアノにもよりますが平均してアップライトで約30〜50万円。
 安価だからといって飛びつくと、近い将来高額な修理が待っています。

※ 中古で良い状態のハンマー@




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 重要なポイント 〜

 
高品質で状態の良いハンマーが、   
正確な位置に取り付けられていること。


 
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※ 中古で綺麗な状態のハンマA


また、これは一定以上の技術を持つ技術者しか判断できないことですが、次の点も重要なポイントです。

 1) もともと消耗していたハンマーの溝を削って、消耗がなかったように見せかけていないか

 2) 削られた形跡があった場合、変な削られ方をされていないか

 3) 針刺し技術のない技術者によって、針が刺されすぎてハンマーがダメにされていないか

 4) 硬化剤が必要以上に使われていないか
   
※硬化剤で固められすぎて針刺しもできなくなっているピアノは音質も硬く、伸びも少ないため交換が必要です。

 5) オリジナル以外のハンマーに付け替えられていないか
   
※付け替えられている場合、低品質のハンマーでないか、正確な取付けがなされているかを確認する

 6) 
高品質なハンマーであっても、正確な位置に取り付けられているか
    ※状態が悪ければ修理が必要になります

※ 消耗が進んだハンマー
※上写真「中古で綺麗な状態のハンマー」と比べてください

※ 調整不良で間隔がバラバラのハンマー




A 弦のサビ
 
※弦とは:1つの音につき3本の弦が張られています。鍵盤を押すと、ハンマーが弦を打って音が出ます。
  音色、音量、音律のすべての点で、ピアノの音の良さに密接に関わっています。


ピアノ周りの環境が良くなかったりすると、弦が錆びてきます。
サビがひどくなるとザラついた音がしたり、伸びがなくなったり、明らかに音色が損なわれ、
解決するには近い将来全弦交換が必要になります。
全弦交換には平均してアップライトで50万円前後、グランドピアノで100〜150万円前後の費用がかかります。

大きな落とし穴もあります。
弦に油が塗られてしまっているピアノがあるのです。

もともと弦の表面には、サビが広がらないためのコーティングがあります。
錆びてしまった弦をきれいにみせるために、サビをヤスリで落としている場合もありますが、
同時にコーティングもとれてしまいます。
このような理由から、ヤスリでサビを落とした後、コーティングの代わりとして
油を塗る作業が広く行われてしまっているのです。
弦に油が塗られると、音が全く伸びなくなります。満足のいく音色に戻すには、全弦交換が必要になります。

ヨーロッパ伝統のピアノ技術を修得した技術者であれば、弦が錆びた時に、ヤスリで落とす事はしません。
弦に傷が付いて、音に影響してしまうからです。
まずは、弦が錆びない環境作りが大切ですが、既に錆びてしまった弦はどうすればよいのでしょうか。
答えはひとつ。
ザラついた音に我慢できなくなるまで耐えて、限界がきたときに全弦交換をするしかありません。
また、弦には寿命があるために、寿命が近い弦の場合も音が伸びません。

※ 綺麗な状態の弦 (中古ピアノ)



※ 錆びた弦@


※ 錆びた弦A





B 弦の疲れ

一般の方ではなかなか判断がつきにくいポイントです。見た目だけではわかりません。
弦の寿命の残りが明らかに短い状態のものについては、近い将来全弦交換が必要になります。
弦が疲れてくると、まず音の鳴りが悪くなり、弦があちこち切れ始めます。
当店技術者は、音色、音量、タッチによって、あと何年ぐらい弦が保持できるか判断できます。

また、低音弦の巻き線(低音には、銅線が巻かれたものが使用されるので巻き線と呼ばれます)で鈍い音がしているものは、
「ボン線」と呼ばれる状態になっていることがあり、これは巻き線がゆるんでボーンという音がすることに因ります。
巻き線のゆるみ方によっては、ジーンという音がすることもあり、こちらは「ジン線」と呼ばれています。
ある方法でこれが改善することもありますが、ほとんどの場合弦を交換するしかありません。


C チューニングピンのゆるみ
 
※チューニングピンとは:弦を強く張るためのピン。弦の一端をチューニングピンに巻きつけて、弦の張力を保持します。
  また、調律師はこのチューニングピンを回して張力を加減することでチューニング(音合わせ)をします。
  チューニングピンがピン板に確実に保持されているか否かは、正しい音律を保持できるかどうかの決め手となります。
  

見た目では判断がつきませんが、調律師であればよほどのことがない限り容易に判断できます。
チューニングピンがゆるいと、調律が狂いやすくなります。
ひどい状態になると、調律した数秒後には大きく狂ってしまいます。

簡易的に、ゆるくなったチューニングピンを打ち込むとその場はしのげるかもしれませんが、
4〜5年経つとまたゆるくなってしまいます。
きちんと直すには、全てのチューニングピン(約230本)をひとまわり太いものに交換する修理が必要で、
高額な費用がかかります。


D 響板の割れ
 ※響板とは:ピアノの心臓部とも言える部分。ピアノは、主に響板が振動することで音が出ています。
  木はまっすぐな状態ではなく、曲げの力が加わったときに音を増幅する性質があるため、
  全てのピアノの響板はお皿を伏せたような形に椀曲して作られています。

 
響板の割れたヨーロッパ輸入ピアノを購入してしまう人があとをたちません。
技術者でなければなかなか気付かない部分だからです。
グランドピアノなら、蓋を全開にして響板に亀裂が入っていないかをくまなくチェックしてください。
ほんのわずかな亀裂でも、冬に空気が乾燥してくると広がってくることがあります。。
湿度の高い夏は、響板がふくらんで亀裂がくっついていて一般の方では判断が難しいため、
発見できずに購入してしまったという例に出会うことがよくあります。

アップライトピアノなら、下前パネルを外してもらい、全体をくまなくチェックしてください。
響板の割れ修理は大掛かりな作業の為、ご自宅では作業できません。修理費用も平均150万円程かかります。

なお、あまりにも安い費用で修理する業者は、修理とはいえない即席修理を施している場合が殆どです。
修理業者についても料金だけでなく、実際にどんな方法でどんな材料を使い、
誰が作業に携わるのかを確認することが重要です。
誤った方法で修理されたピアノは音色が悪くなったり、演奏に支障をきたしたり、
最も悲しいことに、ピアノとしての機能を果たさなくなってしまう場合もあるので注意が必要です。

※ 響板が割れたピアノ@


※ 響板が割れたピアノA




E 響棒はがれ
※響棒とは:椀曲した響板を裏側から支えて強度を保持している棒。家屋でいうと、床下の根太(ねた)の役割。
 木は木目の方向に振動を伝える性質があるため、響板の木目と垂直方向に響棒を貼ることで、弦の振動を
 響板の隅々まで伝達し、ありとあらゆる方向に音を伝えています。


響板を支えている棒が、響板からはがれていることがあります。
目でみても発見しにくいのですが、ピアノの命でもある響板にかかわる部分で、
はがれていると、その楽器の能力は引き出せません。
下記の写真のように、目で見てわかるほどはがれていることは稀で、髪の毛1本入るすき間もないぐらいの
ほんのわずかなはがれでも、雑音など不具合が出るので厄介です。

※ 響棒はがれ@
響板と響棒の接着がはがれているのがわかります。

※ 響棒はがれA
こちらは響板も割れて、響棒もはがれています。



F 駒の接着はがれ

 
※駒とは:弦に接触して、弦の振動を響板に伝える役目をしている部品。響板の表側に接着されています。
  
目で見ても発見しにくい箇所です。
弦を支えている駒の接着がはがれていると、雑音が生じ、せっかく調律してもすぐに狂ってしまうため
楽器として機能しません。

 駒修理の様子@


 A駒修理の様子




G 駒の割れ

駒が割れている場合、雑音が出たり、音が伸びなかったりと不具合が生じます。

※ 駒割れ




H ピン板の割れ
  

 
※ピン板とは:チューニングピンが打ち込まれている板。チューニングピンがピン板に確実に保持されているか否かは、
  正しい音律を保持できるかどうかの決め手となります。


これはフレーム(鉄骨)の下に隠れているため、見ることができない部分の割れです。
音律が保持できないため、せっかく調律してもすぐに狂ってしまいます。
直すには、弦を外し、チューニングピンも抜き、フレーム(鉄骨)もピアノから外さなければならない、
とても大変な修理です。場合によっては新品に買い替える方が安くなることもあります。


I フェルトの摩耗

フェルト素材の部品は、ピアノ内部の多くの箇所に使われています。
フェルトの磨耗は、起こった箇所によって出てくる不具合が異なります。
この写真の場合は、近いうちに鍵盤が上がらなくなるという症状が出てきます。
磨耗の箇所によっては、クッションの役割を果たさなくなることでカタカタ雑音が出たり、ガタつくようになります。

 フェルトの摩耗





J フェルトの虫食い

磨耗と同じように、虫食い箇所によって不具合も様々です。雑音を起こしたり、鍵盤の動きに不具合が生じます。

 フェルトの虫食い@


 フェルトの虫食いA



K 響板の割れを修理した痕跡
  ※駒を通ってきた弦の振動を共鳴させ、音を美しく増幅させる役割。ピアノの音質の大きな決め手となります。

これに関しては、高度な技術を持つ技術者でないと判断できないところです。
ヨーロッパのピアノは、響板が割れても埋木修理(割れの隙間を木片で埋める修理)をすれば完全復活します。
実際にヨーロッパで、修理を重ねながら200年以上も美しい音色を奏でているピアノとたくさん出会いました。
正しく修理されたピアノなら全く問題ありません。
ただし、間違った方法で響板の割れが修理されている場合、音色やその後の耐久性にもかかわってきます。
とくに日本で蔓延している誤った修理方法で、「割れの隙間に瞬間接着剤を流し込む」という驚くほど即席の方法。
これはもはや修理とはいえません。
また、せっかくの埋木修理をしても、木工用ボンドを使った接着では台無しです。
(木工用ボンドは音を伝えないため、確実に音が劣化してしまいます)

当店で修理する際は必ず、ニカワという天然の接着剤を使います。
音の伝導が良く、耐久性にも優れており、ピアノにとって最も理想的な接着剤です。

ちなみに、この響板割れの修理の形跡は、技術者がみれば一目瞭然です。
気になる場合はその部分の写真を撮って、信頼できる技術者に見せるのも一つの方法です。
ここで重要なのは、ヨーロッパで修理技術を学んだ技術者でないとわからないことも多く、
技術者を選ぶことも重要です。

 響板割れ部分に木工用ボンドを流し込んだ跡

       
ニカワ(ピアノにとって理想的な天然接着剤)

                                          

L フレーム折れ(割れ/亀裂)

ごくまれにですが、フレーム(=鉄骨)が折れた(割れた/亀裂が入った)ピアノを
購入してしまわれる方がいらっしゃいます。
このようなピアノが販売されていることそのものに驚きを隠せませんが、
残念ながらフレームの割れは、ピアノにとって致命傷です。
他の部分なら、あらゆる箇所において修理(あるいは交換)可能ですが、フレーム割れだけは、
鋳物ですので修理が出来ません。溶接を謳っている業者もあるようですが、鋳物なので溶接は不可能です。

なぜ「溶接不可能」なのでしょうか。

ピアノのフレームは、ねずみ鋳鉄(普通鋳鉄)と呼ばれる材料で作られています。
ねずみ鋳鉄は炭素量が極めて多く、高い耐熱性・防錆性を持ち、
様々な鋳鉄の中でも鋳造性に優れています。
けれども反面、黒鉛を多く含有することから他の鋳鉄と比べて脆弱という欠点もあります。

まず、鋳鉄には、溶解解状態から急冷されると白銑(はくせん)という
硬くて脆い組織(セメンタイトの結晶)ができ易い性質があります。
また、溶接すると酸素や窒素等の気体によって、鋳鉄内部に空洞が生じます。
これらによって内部が弱化し、結果、新たな割れに繋がるのです。

以上のことから、フレーム割れ=ピアノとしての寿命を終えたものと判断されますので、
当然価値もゼロになってしまいます。

ちなみに、フレームに少しでもひび割れや亀裂が入るとどんな不具合が生じるかと申しますと、
まず調律が保持できなくなります。調律しても、みるみるうちに音程が下がってしまいます。
実際、ほんのわずかな割れであっても、調律した30分後には半音下がっておりました。
補強したところで完全に直ることはなく、亀裂はいずれさらに進んでいきます。
前述のとおり、接着も溶接もできないため、ピアノとしての寿命と判断する他ありません。


M 塗装の下にある傷の具合

中古ピアノは、そのままの状態では傷や日焼けが目立つため、仕入れた段階で塗装が施されている場合が多いです。
もちろん中古ですし傷があるのは当然なのですが、あまりにも傷が多い場合は問題です。
傷を隠すために、塗装が分厚く塗られてしまうことが多いからです。
分厚い塗装は、外装の木の振動を止めてしまうため、音の鳴りが悪くなってしまいます。
また、音の抜けが悪くなり、こもったような、鼻詰まりのような音になります。
塗装がやけに濃く、分厚く塗られていないか必ず確認してください。

以前、修理のためにお預かりしたピアノの塗装をはがしてみると、2ミリもの分厚さで塗られており、
これには熟練の塗装職人さんも驚かれていました。
目を凝らして、塗装の下にある傷にも着目してみてください。

ちなみに当店では、
ピアノ塗装専門の三代目職人であり、日本で最も信頼されている塗装業者さんにお世話になっており、
塗装は100%そちらの業者さんにお願いしております。
スタインウェイ社からの塗装依頼も100%請け負っている塗装業者さんなので安心です。


  

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